甲谷匡賛(こうたにまさあき)「ALSな日々」

個展に寄せて

甲谷匡賛

このような病気になることで、「私」は少し目が醒めました。
それまでの「私」は、生の上っ面しか知らなかったと、はっきり知ったからです。
うまく伝わるか分かりませんが、正確に言うと、「私」が目が醒めたと言うより、目が醒めて「私というわがまま」が、少し減ったような感じがしています。今、日々感じている苦痛は、病状が進むに連れ、「私の苦痛」から「わたしたちの苦痛」といった感じに観じられてきました。
宮沢賢治の詩にありますが ー「私」の解釈ですが― 「私」とは、ひとつの仮定された現象(モノ/コト)に過ぎない気がしてきました。
現実には、 -病状が進むに連れー 「私」は益々手間が掛かる人になっていく訳ですが(最大の苦痛です)、内面に於いては、「私」はひとつの景色のように観じられるようになりました。
「苦悩は最初の恩寵である。」という言葉を聞いたことがありますが、正に苦の体験こそ、「私が私自身で存在できないこと」を、はっきりと目覚めさせてくれることと知りました。
今では、絵をひとりで描くことはもちろん、寝返りひとつうてません。
本当にたくさんの方々の御協力を得て、このような個展を開かせて頂くこととなりました。
ありがとうございました。
先程も申し上げたように、益々手間の掛かる「私」です。
お手数お掛けしますが、今後ともよろしくお願い致します。 合掌